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お嫁においでよ

2013.04.28 19:19|FF4 中編①
リクエストSS第一弾です。
Sさま、ありがとうございましたー!!



お嫁においでよ






ぴっちりと締め切られたダイニングのドアは、無愛想な顔で仁王立ちをし、その前に立ち尽くすリディアをじっと検分しているかのようだった。
そのドアに下げられた白いプレートには、

本日の朝食は終了いたしました。

――と、丁寧な手跡で書かれた一文。
そしてその端っこには、「ごめんね!」と愛くるしい笑顔で謝るウサギの女の子が描かれている。
「……うそぉ」
読み返したところでその内容が変わるはずもないのだけれど、リディアはしげしげとその文章をもう一度読み直し、そして改めてがっくりと肩を落とした。
「二度寝なんか、するんじゃなかったなあ……」
そんなリディアを見下ろすように、壁の鳩時計が、のんびりと朝10時を告げた。







リディアたちが月面から食糧補給のために一旦この青き星に戻ってきたのは、一昨日前のことだった。
買い出しはすでに昨日のうちにすべて済ませてしまってある。出立はもともと明日と決めていたので、今日はまるごと一日めいめいが自由に過ごせる貴重な休日だった。
月面での肉体的、精神的負担は想像以上だ。もともと体力のないリディアだからなおさらしんどい。特に今回は魔物との激戦続きだったので、かつてないほどの疲労を感じていた。だから今日はとにかくただひたすらに、のんびり過ごそうと決めていたのだけれど。
――まさか二度寝のせいで、朝ご飯を食べ損ねるだなんて。
「ローザに、出かける時に起こしてねって頼んどけば良かったよぅ……」
後悔したところでなんとやら、である。
そのローザは朝9時ころにセシルと個人的な買い物に出かけて行ったはずだ。カインはカインで、市場に出かけるだとか前日に話していたのを覚えている。エッジだけは宿に残り武具の手入れをしているはずだけれど、彼もたいがい早起きだから、もうすでに活動中のことだろう。
「みんな頑張り屋さんだなあ……」
ゆっくりダイニングの前から踵を返しつつ、ぽつりとリディア。それともわたしがのんびりしすぎているのかしら。
仕方ない、今日はどこか外のお店に食べに行かなければ。見かけによらず容量の大きいリディアの胃袋は、何でもいいからはやくごはんを寄越せと先刻からぶぅぶぅ文句を垂れっぱなしだ。
――すると。
「へっくし!!」
聞き覚えのあるくしゃみが、頭上から降ってきた。反射的に見上げると、二階からダイニングに続く階段の途中に見慣れた顔があった。
「エッジ!」
声に出して名を呼ぶと、ずず、と鼻をすすりあげていたエッジがこちらを向いた。
「おー、リディア!……ってかお前、そんなとこで何してんの?」
訊ねられてリディアはちょっとばかり言い淀んだ。二度寝していたら朝ご飯を食べ損ねちゃったのなんて正直に言ったら、また盛大に笑われるんじゃなかろうか。
「あの……その。ちょっと食堂に用事があって……」
「ふーん?」
言葉を濁すリディアに少し首を傾げながら、エッジはとんとんと軽快な足取りで階段を下りてくる。そしてリディアの横に並び立つなり、「げげっ」といきなり目を剥いた。
「なんだこれ、食堂閉まってんじゃん!まじかよ!」
「……へ?」
思わずリディアはぱちくりと目を瞬かせる。まさかエッジも……わたしと一緒なの?
しかしそんなリディアに構うことなく、エッジは「まじかよまじかよ」などと呟きながら、ドアプレートを何度も読み返している。
「本日の朝食は終了いたしましたって……おいこらウサギ、ごめんね!で済むと思ってんのか!まだ10時だろーが!余裕で朝飯の時間だっつーの!」
「え、あの、エッジ」
冗談なのか本気なのかドアプレートに毒づくエッジの肘のあたりを、慌てて引っ張る。
「ん?どした」
「あ、あの――エッジも、朝ご飯食べ損ねちゃったの?」
「そうだけど……エッジもって言うことは、お前もなの?」
こくりと頷くと、ぷっとエッジが吹きだした。
「なーんだ、お前もか!食堂に用事なんて言い方するから、別口かと思ったぜ」
「それは――だって正直に言ったら、絶対エッジに笑われると思ったんだもん」
「なんだそれ」
くっくとエッジは喉を鳴らした。そしてぷぅと頬を膨らませたままのリディアの頭をぽんぽんと叩くと、
「悪かった悪かった、そんなふうに気を遣わせちまって。食い損ねた朝飯はおごってやっから、そんな顔すんな」
「え……ほんと!?」
「おーマジマジ。しかし何だ、お前も二度寝派?」
「あ、うん。今日くらいはのんびりしようと思って……。でもエッジが寝坊するなんて、珍しいねえ」
ちょこんと小首を傾げると、なぜかきまり悪そうにエッジは視線を外した。
「まあ、な。寝る前に、ちょいと考え事してたからさ」
……考えごと?
例えば――そう、エブラーナの今後のこととかだろうか。
きっとエッジはこれでいて王子様だから、リディアが思うよりもうんと多くの懸案を抱えているのに違いない。
「大変だねえ」
しみじみと労うと、エッジは「どうも」と苦笑いで応じた。
「ま、それはともかく。そろそろ飯食いに行くか?モーニングサービスが終わっちまうからな」
「あ、うん!」
打って変わって元気の良くなった返事にエッジは軽くうなずくと、先に立って歩き出した。あわててリディアは小走りになって横に並ぶ。
「――それにしても」
こちらをちらりと横目で眺めてから、エッジが小さく笑う。
「さっきはあんなに膨れてたのに、いっぺんに機嫌が直っちまうんだなあ」
「……う」
思わず言葉に詰まるリディアである。我ながら確かに単純だと笑われても仕方のない変貌ぶりだった。
「悪かったわね、どうせお子様ですよーだ」
どうせからかわれるなら、先手必勝だ。いじけたようにリディアが呟くと、「たしかに」とエッジが笑いながら頷く。
ああ、やっぱりまたお子様だって言われちゃった。けれどここで頬を膨らませたら、ますますお子様度があがるばかりだ。ふんだ、と唇をとがらす程度でこらえていると、「まあ、でも」と何気ない口調でエッジが続ける。
「――そんなところが可愛く思えなくもない、かな」
……え。
初めて聞くエッジの言葉に、知らぬ間に歩調が緩やかになってしまっていた。
いま、――なんて?
声にならぬ声で先を行く背中に問いかける。するとその途端くるりとエッジが肩ごしにこちらを振り返ったので、どきりと心臓が跳ねた。
もしかして聞こえていたのかと思うしかない、このタイミング。
だとしたら。
だとしたら――。
リディアが息を詰めて見守っていると、エッジが口を開いた。
「……おーい。あんまのろのろ歩いてっと、置いてくぜ?」
「あ……」
思わずぽかんと口が開いてしまう。どうやら聞こえたわけじゃ、なかったらしい。
……なあんだ。
リディアは自分自身に小さく苦笑い。
やだなあ、当たり前じゃない。まったくわたしったら、勝手に何を期待してるんだか。
きっと先ほど足を止めてしまったあの言葉も、何かの聞き間違いだったに違いない。
――だってエッジがわたしにあんなこと、言うはずがないもの。
「はぁーい」
足を速めてもう一度追いついたリディアの頭を、大きな右手がくしゃりと迎えた。







結局リディアが選んだのは、カフェスペースの併設されたパン屋さんだった。
「いただきまあーす」
会計を済ませたエッジが席につくのを待って、リディアはがぶりとタマゴパンにかぶりつく。やさしく香ばしい味が口いっぱいに広がった。
「お前ってさ、ほんとパンが好きだよなあ」
セットのブラックコーヒーをすすりながら、若干あきれたようにエッジが呟いた。そう言うエッジのお皿には、野菜たっぷりのサンドイッチが乗っている。
むしゃむしゃと口を動かしながら、「そう?」とリディアは小首を傾げる。
「エッジは、あんまり好きじゃないの?」
「んー……別に嫌いじゃねえし美味いと思うけど」
言葉を切ってコーヒーを置くと、サンドイッチにかぶりつく。
「でもまあ……たまには違うもんも食いたくなるっつーか」
――ああ、そっか。
リディアはピンと来た。そう言えばバロンとは違い、エブラーナの主食はパンではなかったはずだ。
「いつもパンだから、ご飯が懐かしくなるってことだよね?」
「お、ご明察。お前は食ったことないだろうけどさ、たまごかけごはんとか、時々無性に食いたくなるんだよなー」
「たまごかけ……ごはん?」
耳にしたことのない料理名に今度は反対側に首を傾けると、「そうそう」とサンドイッチを頬張ったままエッジが頷いた。
「ま、べつに大した料理じゃねえんだけど……。たまごをぱかっとあつあつの白ごはんの上に割ってさ、そこに醤油をちょろっと垂らして、そんで、それをがーっとかきこむわけ」
でもそれが単純に美味いんだよなあと、エッジはかきこむ真似をしつつ笑う。
「王子らしくないってよく言われたけど、俺の大好物だった」
「へえ……」
リディアはアイスティーのグラスを両手で挟んだまま、軽く頷いた。
こんなふうにエッジが昔の話をしてくれるなんて、ちょっと珍しいかも――。
少し照れたように、そして懐かしそうに笑うエッジを見ていると、不意にぎゅうっと胸が詰まった。
そうやってエッジが懐かしむその故郷は、今はもうないのだ。
そこにはきっとたくさん、たくさんの思い出が詰まっていただろうに――。
うすく唇を噛んでいると、いきなりエッジの手が伸びてきて鼻をぎゅっとつまんできた。
「んぐーっ!?」
「……んな顔してほしくてこの話したんじゃねえんだけどな」
メシがまずくなるだろ、と言うエッジはもっともである。
こくりと頷くと、エッジはにこりと笑ってリディアの鼻を離した。
「ほら、このオムレツ食ってみろって!ふわふわでめちゃくちゃ美味いぞ」
「う、うん」
勧められて、モーニングサービスでついてきたオムレツにフォークを入れてみる。とろりとした半熟たまごを口に運ぶと、リディアの目がぱあっと広がった。
「うわあなにこれ……すっごく美味しいっ」
「だよなあ。うーむこのパン屋、なかなか侮れんな……」
「ほんとだね。道理で混んでるはずだよねえ」
のんびり頷いて、リディアはエッジに倣ってぐるりと店内を見渡してみた。40席ほどあるカフェスペースはほぼ満席状態である。混んでいるからにはさぞかしパンが美味しいのだろうと思って入った店だったけれど、意外とこのオムレツ目当てのお客も多いんじゃなかろうか。
「こんなふうに上手にオムレツが作れたらいいなあ」
「お前はまず目玉焼きを練習しろよ」
すかさず突っ込まれ、むっとリディアは口をとがらせた。
「なによー、目玉焼きならちゃんと作れます!作れないのはエッジでしょ」
「失礼な奴だな!俺だって目玉焼きくらい」
「うっそだー。この間失敗したって言って、スクランブルエッグにしちゃってたの誰だっけ?」
ほんの数日前の事実を引合いに出すと、さすがのエッジも言葉に詰まった。
「ま、まあそりゃたしかに――でもあれはあれで美味かったからいいんだよっ」
減らず口を叩くと、むしゃむしゃサンドイッチを頬張り始める。その横顔にリディアはくすくすと笑ってから、もう一度オムレツをすくって口に運んだ。ああ、やっぱり本当に美味しい。
「お料理、上手になりたいなあ……」
何気なく呟いただけなのに、向かいでエッジにあからさまに眉をしかめられてしまった。
なんとなく自覚はしていたけれど……そんなにヒドいんだろうか、わたしの料理は。
「もう、そんな顔しなくたっていいじゃない」
ごはんがまずくなるでしょーとエッジの真似をして言ってやると、やがてその顔は苦笑いに変わった。
「わりわり。でも急にお前が料理上手云々なんて言い出すもんだから。なんだ、リディアもそんな風に思うこともあるのかって、ちょっと驚いてさ」
「そんなの、前からずっと思ってたよう。お料理当番の時だっていつも、みんなに美味しいごはん作れたらいいのになあとか思ってるし。……それに」
付け足しておきながらその先を言いよどむと、「それに?」と促すようにエッジが首を傾げた。
それに――この言葉の先には、わたしの小さいころからの夢が続く。けれどこれを言ったら、エッジは、笑うだろうか。お子様が何言ってんだとか、お前にゃ100年早いだろうとか、笑うどころか呆れ返ってしまうだろうか。
リディアが逡巡しているのを見て、「どした?」とエッジは切れ長の目をぱちくりとしばたたかせている。リディアは思い切って「笑わないんで欲しいんだけど」と前置きをして、切り出した。
それはエッジに、知ってほしかったからに他ならない。笑われても良かった。わたしだってまるでお子様のままじゃないんだと、少しくらいはお年頃の女の子らしい夢を見ているんだと気づいてほしかった。
「いつか……いつかね、わたしも結婚したら、旦那さんができるでしょ」
――すると、つい先ほどまで無邪気にぱちくりしていたエッジの目が、いきなり鏡のように固くなったのが分かった。
それは、ぴきりと音がするくらいに。
無意識のうちに地雷を踏んでしまったのかと、思わず口をつぐんでしまうくらいに――。
リディアの細い喉がかすかに鳴った。
わたしは、この先を話していいんだろうか……。
ためらっていると、エッジが柔らかな声を出した。
「……そんで、どした?」
「あ――ご、ごめんね。それで……あの、そしたらね、旦那さんの大好きな物を、作ってあげたいなあと思うんだ」
だからお料理が上手になりたいなあと思うの――。
一息に話し終えてしまうと、リディアは何かから逃げるように顔を伏せて、アイスティーのグラスに刺さったストローに口をつけた。すっかり薄くなってしまった液体が細い喉を潤す間もなくかけ下りてゆく。
――果たしてエッジの反応は、予想していたもののどれとも違っていた。あんな頑なな眼差しになるだなんて、思ってもみないことだった。
一体なにがいけなかったんだろう。
不謹慎なことでも言ってしまったんだろうか。
てっきり笑われるとばかり思っていたのに――。
「……お前もそんなこと、考えてんだな」
ぽつりとこぼしたエッジの声は、優しかった。誘われるようにリディアがそっと顔をあげると、あの頑なな眼差しはすでになく、いつもの少しばかり皮肉っぽい笑顔がそこには浮かんでいた。
おずおずとリディアが頷くと、エッジは笑顔はそのままで視線だけを外し、その必要もないのにマドラーでブラックコーヒーをゆっくりとかき回しはじめた。
「まあでも、それもそう遠くもない未来の話なんだよなあ。お前ももうすぐ20になるし。この戦いが終わりゃ、そういう話だって湧いてくるんだろうな」
「え――さ、さすがにそれはないってば」
「いや、そんなことあるよ」
でもさっきのはちょっと不意打ちだったかもなと、小さく笑う。
「いきなり、んな話を何気なーくされると、……正直ちょっとキツい」
「キツい……?」
エッジの言っている内容はさっぱり分からなかったけれど、――けれどリディアの言動がエッジを何かしらの意味で追い詰めてしまったのは確かなようだった。どこか自嘲気味なその笑顔に、胸がぎゅっと苦しくなる。
ごめんねを言おうとした時だった。エッジが、思いもよらぬことをこぼしたのは。
「――でもさ、そう言う理由なら、そう頑張って料理上手になんなくてもいいんじゃねえの」
「え……?」
どういう、意味だろう。
リディアは首を傾げたまま、大きな目をぱちくりと二度瞬いた。それでもエッジの言葉の真意はさっぱり見えてこない。話の流れから、お前みたいなお子様にはまだ早いだろうとかいうことではなさそうだ。黙ってコーヒーをすするエッジにも、からかうような様子は見当たらない。
汗をかいたアイスティーのグラスで、からんと氷が涼しげな音をたてて揺れた。
「未来のお前の旦那がどんな男か、俺には分かんないけどさ」
ブラックコーヒーのカップから口を離すと、エッジは続けた。
「たいていの男なら、好きな女が頑張って作ってくれた料理だったら、何でも美味く思えるもんだろ」
さらりと言ったエッジの声に、なぜか胸がどきりと高鳴った。
世の中の男の人全員が、そうとは限らないだろう。けれど、エッジはそうなのだ。好きな女の人が自分のために心を籠めて作ったのなら、その料理まで好きだと思えてしまう人なのだ。
羨ましい、と正直思った。ざらりと胸の裏を撫でられるような嫌な思いが芽生えなかったかといったらウソになる。エッジに愛される女の人は、一体どんな人なのだろう……。
気付かぬうちに、じっとエッジを見つめてしまっていたらしい。「どうした?」と首を傾げられて、慌てて「なんでもない」と面を伏せてオムレツを口に運んだ。けれど、どれほど美味しいふわふわの卵を飲みこんでも、この胸のざわめきが治まることはない。
……いったい、どうしてしまったんだろう。
「まあ、そういうわけでさ、別にそう料理上手にならなきゃって焦ることはねえと思うんだよな。別に世の中女が料理しなきゃいけねえって決まってるわけじゃないし……って、おい、聞いてる?」
「う、うん、聞いてる聞いてる!」
にゅっと顔を覗き込まれて、リディアは慌てて笑顔を作った。ああ、いけない、わたしったら。余計なことを考えすぎだ。
こうして毎日エッジと食卓を囲む女の人がうらやましい、だなんて。
……わたしがエッジの未来の奥さんにヤキモチを妬くなんて、そんなはずないじゃない。
アイスティーで喉を潤してから、ぎこちなく見えぬよう精一杯にこにこと自然な笑顔を繕う。頬杖のエッジはなんだか胡散臭そうな顔をしている。
「ありがとう、エッジ。色々と励ましてくれて」
「あ、いや。別に励ましたわけじゃ……だってさ、お前がすげえ簡単な料理が大好きな男と結婚するパターンだってあるわけだよ。たとえば――」
そこでつとエッジは言葉を切ると、頬杖をついたまま、なぜかじっとリディアの目を見つめてきた。まるでそこに、わたしの未来が見えるとでも言うように。一対のアメジストのようなエッジの切れ長の双眸は、見惚れてしまうほどにきれいだった。
たとえば……なんだと言うのだろう?
心の中で問いかけると、エッジが静かに口を開いた。
「……たとえばたまごかけごはんの大好きな男とか、さ」
――え。
どん、と後ろから思い切り突き飛ばされたようだった。思いもよらぬ衝撃に、自分の目が、一層大きく広がったのが分かった。
たまごかけごはん。
それって。
それって――。
言葉を失ったリディアの頭の中で、先ほど交わしたばかりの、エッジとの会話がリフレインする。

――たまごかけごはんとか、時々無性に食いたくなるんだよな。
――王子らしくないってよく言われたけど、俺の大好物だった。

そう言ってエッジは笑っていたじゃないか。本人を目の前にして、期待するなと言う方が無理だ。
すっかり固まってしまったリディアを前に、頬杖をやめるとエッジはゆるく腕組みをして小さく笑った。
「ま、そういう未来もありかな程度に思ってもらえりゃいいな、って話なんだけど」
その言葉が決定打なのだということくらい、リディアにも分かった。
やわらかく見つめる視線に、リディアは無意識のうちに口元に手を当てて面を伏せてしまった。このままエッジの視線を正面から受け止めていたら、顔が火炎放射器のようになってしまいそうだった。
先ほどどうして急にエッジの表情が強張ったのか、今ならば容易に理解できた。
心の底からお子様だと思われていたわけじゃ、なかったんだ。
ちゃんと追いついていたんだ。
うれしいと――器からお湯が溢れるように、そう思った。
何のことはない。リディアも気づかなかっただけで、きっとずっと、同じ気持ちだったのだ。だからあんなに自分は子どもじゃないんだと、分かってほしかったのだ。それにエッジの未来の奥さんにヤキモチだなんて。
そう言う未来もありだよ。ううん、そんな未来が一番だよ――そう伝えようとした時。
「あら、リディア?」
不意に割って入ってきたのはローザの声だ。ぎょっとして顔をあげると、すぐ真横に偶然通りがかったと言うような様子のローザの姿があった。その手にはパンとカフェオレが載ったトレイがあり、もちろんセシルも連れ立っている。
「ロ――ローザ」
「偶然ね!美味しそうなパン屋さんがあったからちょっと入ってみたんだけど、まさかリディアがいるなんて!」
「そ、そうだね……」
えへへとぎこちなく笑うけれど、心臓はまだばくばく鳴りっぱなしだ。若干挙動不審なリディアに気づくこともなく、ローザはリディア達の隣のテーブルに陣取ることにしたようだ。そのパンおいしそうだねえ、ううんそっちのほうがなどと言いながら、ちらとエッジの方に視線を向けてみると、あからさまに苦虫噛み潰し顔になっている。思わず笑ってしまった。
「何よエッジ、その顔は」
リディアが笑ったので気づいたらしい。ローザがふんと鼻を鳴らすように訊ねると、「別に」と不貞腐れたようにエッジは答えた。
「デートの邪魔されりゃ、誰だって機嫌悪くなるだろーよ」
「あら、意外と王子様は狭量なのね。そんなことじゃ幻滅されるわよ」
ずばりと言われ、エッジはうっと口をつぐんだ。そう言えば以前ローザから聞いたことがある。男を黙らせるには、器の大きい小さいで攻めるのが一番だと。その論法はどうやらエッジにも有効らしい。
けれど、エッジの気持ちも分からないでもない。今まさにリディアが返事をしようとしていた矢先だったのだ。
今までこんな風に思ったことなんてなかったけれど。
――なんだかちょっと、かわいいかも。
くすくすリディアが笑っていると、エッジは照れ隠しのようにがぶりとサンドイッチにかぶりついた。仏頂面でむしゃむしゃ咀嚼していたけれど、リディアからの視線に気づいて、そしてリディアだけに分かるように、ようやく口の端だけで微笑んでくれた。初めてお互いの心の底に、温かいものが通い合ったような気がした。
――ねえ、エッジ。
胸に生まれたかけがえのない温もりを抱きしめたまま、リディアは思う。
4人でパン屋を出たら、その帰り道、気づかれないように、ふたりで手をつなごう。
そしてそっと、こう言おう。
ねえエッジ、わたし、お料理はちっとも得意じゃないけれど。
でもね、いつかがんばって美味しいたまごかけごはんを作りたいなあって思うの。
だから、だからね。
――エッジも美味しいごはんの炊き方を、教えてね?



<END>

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プロフィール

みずたま

Author:みずたま
1980年代生まれ。
aiko、spitz、ケーキ、お買いもの、野球(中日!!)、そしてFF4のエッジとリディアをこよなく愛しています☆
7歳と4歳の娘に振り回される日々を過ごしていますー。

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