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Heaven

2013.12.22 00:05|FF4 短編





Heaven






――よう、リディア。天国じゃねえよな、ここは……?



いきなり空から降ってきたあなたは、わたしの名を呼び、こう言ったね。
寄り添うわたしを見て小さく笑って。
それから頬を優しく撫でた大きなてのひらに、涙がこぼれた。
甘くいとしいその温もりに、つい縋りつきたくなってしまったわたしは、どうしようもないほどに女だった。
……ああ、エッジ。
そっと目をつむり、手のひらに手のひらを重ねて、思わずにはいられなかった。
もし本当に、あなたの言葉通りだったのなら、と。

本当にいまここが天国だったのなら、どれほど良かったことだろう――と。









「……っつ!」
包帯を巻く手に軽く力を込めた途端、エッジの顔が歪んだ。驚いた拍子にわたしの手から包帯が転げ落ち、ファルコンの床の上に白い線が伸びてゆく。
「あ、ご――ごめん!」
「いや、いい。俺こそ悪いな」
エッジは椅子から腰を浮かせると、わずかに背筋をかばう仕草でひょいと屈みこみ包帯を拾い上げてくれた。そのまますっかり伸びてしまった包帯をくるくると器用に手元で巻き戻しながら、わたしを見てにやりと笑う。
……まあ、ここはもうかれこれ10年のお付き合いだ。それだけでなんとなく言いたいことは伝わる。どうせ「相変わらずお前はレベル99の不器用だよなあ」とでも言いたいんでしょ。
軽く頬を膨らませて唇をとがらせ、「なによぅ」と返してみると、エッジは小さな笑い声を漏らした。
「それ、10年前のここでも聞いた。変わってねえな」
「エッジだって」
エッジの手から包帯を受け取りながらちらりと上目づかいで眺めてやると、さも意外そうに眉をあげてみせたりする。
「俺の、どこが?」
「どこって、意地悪なところに決まってるでしょー。……ほら、後ろむいて」
エッジの上半身に手を当ててくるりと椅子を反転させる。意外にもエッジは素直にわたしに背中を向けた。
エンジンの低い唸り声がかすかに届くこの部屋は、飛空艇ファルコン号の居住スペースの一角にある。そこでわたしはこうして、先刻はるか頭上から降ってきたエッジの手当て(……らしきもの)をしている真っ最中だった。
いくら身軽なエッジとはいえ、そして受け身をとったとはいえ、あんな高所から降ってきて無事でいられるはずはない。骨は大丈夫とエッジは自分で診断していたけれど、打ち身らしき傷はあちらこちらに見受けられる。どうにか肩や脚は処置し終え、いまは背中の打撲傷に湿布を張り包帯を巻こうとしている――のだけれど、やっぱり「不器用レベル99」の自覚のあるわたしにはなかなか難しい作業だった。
「こりゃ自分でやったほうが早えな」と、汗をいっぱいかきながら腕に包帯を巻くわたしを見てエッジは苦笑していたけれど、それでもわたしの手から包帯を取り上げることはしなかった。ともに空から降ってきた隠密衆の方々に手当を頼むこともなかった。何だかんだ言いながらも、今もこうしてわたしに背中を見せている。
見慣れたはずのその肌色が何故だかとても眩しく見えて、わたしはそっと目を細めた。
――適度に日に焼けた、広くたくましい、この背中。
今はただこうして見つめているだけなのに、それだけで胸がきゅんと縮むようだった。
エッジの背中には、かつての激戦の傷跡がいくつも刻みつけられている。どれほど時が経とうと消えることはないだろう。この瘢痕を目にするたびに、そして指でなぞるたびに、わたしは今はもう遠くなってしまったあの戦いの日々を思い出す。わたしたちふたりがともに旅をし、同じ時間を過ごしていたあの日々を。
いつしか互いに心を通わせ、からだごと愛し合うようになったところで、離れて過ごす寂しさは嵩を増すばかりだ。いつだってわたしはエッジが来てくれるのを待つだけで、そして帰って行く背中を黙って見送ることしかできなかった。そんな日々を、ふたり何年重ねたことだろう。
どれほど願っても共に過ごす日々なんてもう戻っては来ないと、いつの間にか諦めてしまっていたけれど。
――それでもまたこうして、こんな日がくるなんて。
思いが溢れて、気付けばわたしはエッジの体に腕を回し、その背中に抱き着いていた。
「……どうしたんだよ」
そう言ったエッジの声はとても冷静だったけれど、体の前に回されたわたしの手に大きな手のひらを重ねると、ぎゅっと握りしめてくれた。わたしは答えることなく、エッジの背中をだきしめる腕に力を込める。
「ちょっと痛えんだけど」
そう困ったように笑うエッジの声は優しくて、この腕を振りほどくことはなかった。わたしはただ黙ってエッジの背中に頬を寄せ、エッジの匂いで胸をいっぱいにして、愛しいこの体温を確かめていた。
ああ、思いがけないこの幸せに、体が震えるようだ。まるで夢を見ているようだとすら思う。そしてもしこれが夢ならばどうか醒めないでいて欲しいとまで。
けれど何かが、陶酔したわたしの耳元でこう囁く。
――リディア、お前は現実を忘れてしまったのか、と。
暗く冷たいその吐息は、わたしの心臓をぞわりと震わせた。
外の世界は流星の爪痕で、こんなにも恐ろしい状況になっているというのに。
世界には今この瞬間がどうか夢であってほしいと願う人々で溢れているというのに。
それなのにお前はまだこの現実をこんなにも幸せだと、そして夢ならば醒めないでほしいと言うつもりなのか――。
鋭い正論で責め立ててくるその声に抗うように、わたしはきつく瞼を閉じた。
……違う、忘れてしまえるはずなんてない。数刻前、目の前に広がる惨状に言葉を失い、甲板上であんなにも嘆き悲しんでいたのはわたし自身だ。
わたし自身の、はずだった。
けれど――この一連の悲劇がなければ、わたしたちはこうして同じ船にはいなかった。世界が平和な時を刻むままだったのなら、わたしたちはあのまま時折交わるだけの人生を生きていくしかなかった。
平和が約束されたはずの大地に、こうしてまた再び混沌がもたらされてしまったこと。それをわたしは、憎むことができない。心から悲しむことなんて、できるはずがないのだ。ううんむしろ、本当は――。
……そんな自分自身の心の醜さに気づいておきながら、それでもわたしはかすかに震えるこの手を離すことができないでいる。そしてエッジは気づいているに違いない。わたしの心のうちを支配する、ひどく利己的で浅ましいこの感情に。
いつの間にかわたしが、こんなにも歪んでしまっていたことに。
「――リディア」
ふわりと抱き寄せられた拍子に、涙がかすかにエッジの胸を濡らした。けれどエッジは気づかぬふりをしていてくれた。ただわたしを胸に抱き、しなやかな指で、エメラルドの髪を梳いている。わたしを見て、ここは天国なのかと聞いたあなたの、その指で。
「……天国なわけ、ないじゃない」
ぽつりと呟いたわたしの髪に、エッジが頬を寄せる。
「わたしなんかが天国にいられるわけ……ないじゃない」
――そうよ。
わたしとエッジを取り囲む狭い世界は、どこから眺めたって歪みは明らかだった。けれどそれに合わせてわたしも歪まざるを得なかっただなんて、所詮詭弁でしかない。
いつかあなたが目を眇めて見たわたしはもうどこにも居なくなってしまっていた。
残っているのはドロドロとしたどす黒い何かでいっぱいになったわたしだけだというのに、なおもエッジは、わたしを抱きしめる腕に力を込める。そんなふうにしたらわたしが弾けて、エッジまで黒く汚してしまいそうなほど、強く。
思えばわたしは、そんなこと言うなよというエッジの言葉をどこかで期待していたのだろう。こんなわたしだけれど、まだあのころの輝きがひとかけらでも残っていると、うそでもいいから言ってほしかった。
だからエッジが耳元で低く囁いた声に、こんなにも衝撃を受けたのだ。
「――嬉しい」
……それはわたしの声を奪ってしまうのに、十分な言葉だった。
ただ目を見開くしかないわたしの手から包帯を取り上げると、指をからめ、しずかにエッジはわたしに口づける。促すようにやさしく頬を撫でる手のひらの感触に、わたしはようやく目を閉じた。
エッジはいったい、何が嬉しかったのだろう。わたしはもうあの頃のように笑えなくなってしまったのに、どうして嬉しいなんて言うのだろう。
エッジの真意は全く理解できないまま、混ざり合う互いの吐息と熱に、次第に頭のどこかが痺れてゆく。追い立てられて絡めあった手に力がこもる。ああ、わたしたちはこんなことをしていちゃいけない――そう思うけれど、わたしはエッジから離れられない。エッジもわたしを、離そうとしない。
……ああ、そうか。
ぼぅっとなった頭で、ようやく気づいた。
――いっしょ、なのか。
一緒だから、エッジは嬉しいと――そう言ったのか。
間違ったことは大嫌いなはずのあなただったのに。
いつの間にかわたしたちは同じように歪んでしまっていたのか――。
「……お前が居るんなら」
熱い唇のうえでエッジが囁く。わたしの心臓を鷲掴みにするような声で。
「そこが地獄だろうが――俺にとっちゃ、天国に見えんだよ」
甘い毒に満ちたその言葉に答える代わりに、わたしはあなたの首筋に腕を巻きつける。熱い涙が一筋頬を伝った。それは嬉し涙なのか、それとも喪失の涙なのか、わたしにすら判然としなかった。
濡れた頬にあなたのやわらかな唇を感じながら、わたしは瞼を閉じる。
できることならわたしは、いつだって真っ直ぐでいたかった。わたしたちの行く手には幾多の困難があると知っていたけれど、あのころの笑顔で胸を張って、あなたといっしょに歩いて行けると信じていた。
わたしたちは折れない強さを持っていると。
そして誰に恥じることもない、清らかな道を行くことができると。
きっとあのころのあなたも、同じ気持ちだったことだろう。
――ねえ、エッジ。
けれどそれを貫くことはとても容易いように見えて、実はこんなにも難しいことだったんだね。


ファルコンは飛んでゆく。嘆きの声が覆う大地の上を、抱き合うわたしたちを乗せ飛んでゆく。
いつか世界や神様から弾かれたって、構いはしない。真っ直ぐな強さと引き換えに掴んだ狂おしいこの恋に迷いはない。
エッジとふたり、どこまでだって行こう。


――そしてたどり着いたその先に、わたしたちの天国はあるのかもしれない。




<END>

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プロフィール

みずたま

Author:みずたま
1980年代生まれ。
aiko、spitz、ケーキ、お買いもの、野球(中日!!)、そしてFF4のエッジとリディアをこよなく愛しています☆
7歳と4歳の娘に振り回される日々を過ごしていますー。

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