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Kissの三角地帯

2014.02.20 16:15|FF4 短編




Kissの三角地帯







その三角地帯が姿を消したのは、あまりに突然のことだった。
思わず二度見してしまった俺に気づいたらしい。あいつは振り返って、「えへへー」なんてちょっと得意そうに笑っていやがる。
けれど、尋ねずにはいられなかった。
「お前……それ、どうしたの」
「これねえ、さっきローザにやってもらったんだ。ちょっとしたイメージチェンジ!」
あいつは嬉しそうに小首を傾げる。それにあわせて、前髪がおでこでさらりと揺れた。いつの間にかきれいに切りそろえられてしまった、前髪が。
「たまにはこういう前髪もいいねえ!なんだかおでこもあったかい気もするし」
そ、そういうもんかあ?まあ年中デコ出しっぱなしな俺には分かりようのない部分だから黙っておく。その代わり、
「そうだな、なかなか新鮮でいいんじゃねえの?」
そう言うと、ほんとー?とこれまた嬉しそうな笑顔を見せた。
「そっかあ、嬉しいな。じゃあしばらく前髪はこんな感じでいこうかなあ」
くるくる回る大きな瞳が、いつもより楽しそうにキラキラしているように見えた。たぶんきっとそれは揃えられた前髪の所為だろう。ただでさえ印象的なエメラルドの瞳が、余計に魅力的に思える。そう考えると確かにこのプチイメチェンは成功で、よく似合っていると言わざるを得ない。さすがはローザと言ったところか。
――まあ、でも。
「……と言いつつ、俺は前の方が好きかもな」
「へ?」
一瞬で鳩が豆鉄砲喰らい顔になってしまった。俺のたった一言でこんなにも表情が変わるんだから、どうしたって――こいつは本当に可愛いななんて、思っちまうわけで。
「……そうなの?」
「まあ、個人的には、だけど」
曖昧に肯定すると、今度はみるみるうちにしょげてしまった。
「……そうなんだあ、似合わないんだー……」
唇をかみしめてそりゃもう実に悲しそうな声を出すものだから、慌てて俺は弁解に回った。
「あ、いや!俺は別に似合ってないとは言ってねえよ」
すると恨めしそうな眼差しで、俺を見上げる。ぷぅと膨れた頬はまるで水蜜桃のようだ。
「じゃあ何でそんなこと言うのよぅ」
「……何で、って……」
まあこれは身から出た錆と言うしか他はない状況だが、俺は困ってしまった。なんだなんだ、やけに食い下がりやがるな。どうやらよっぽど新しい前髪が気に入っていたらしい。
しかしこの顔は、「まあ別にいいじゃん」で済ませられるようなモノではないだろう。それは長年にわたる密かな俺の観察経験からも明らかだ。かと言って「パッツン前髪は余計お子様じみて見えるぜ」なんて、火がくすぶっているところ目がけてガソリンの一斗缶を投げ込むような真似もできるはずがない。
うむむとしばらく困ってみたものの、良さそうな逃げ道は見つけられなかった。
……これは仕方ない。諦めるとするか。潔さは男の美徳だしな。
俺は軽くため息をつくと、「――色々と、不都合だからだよ」と答えてやった。
それを受けたあいつの目は、案の定お月さんのように真ん丸になる。
「不都合って……なにが?」
そりゃそうだよな。それが真っ当なリアクションだ。だから俺だって言葉で分かってもらおうなんて思っちゃいない。まあここはひとつ、実演させていただくに限るだろう。
そんなことを考えている俺の前で、あいつは難しそうな顔を作って自分なりに解釈しようと頑張っている。
「え、だってこれはエッジの前髪じゃなくてわたしのだから、エッジが不都合になる理由なんて、なにも――」
ないよね、と顔をあげたときを狙った。
俺があいつの前髪に伸ばした指に、反射的にぎゅっと目をつむる。身まで固くして。
――何もそんなびびんなくてもいいのに。
あまりに無防備すぎて、思わず笑ってしまいそうだった。
首をすくめるあいつの前髪をさらりと流し、あらわれた白くまろやかな額。そこに俺はそっと、「実演」してみせる――と。
「な――なに、してんの!?」
あいつはびくっと体を震わせるなり隠密もかくやと思わせる猛ダッシュで後退り、素早く俺と距離を取った。たったいま俺が「実演」させていただいたばかりのデコを両手で押さえ、真っ赤な顔でぷりぷり怒っている。
「だから、何してんのってば!」
「なにって……ねえ」
よく俺がそこにしてることじゃん?
わざとらしく小首を傾げてみせるが、当然あいつが笑うことなんてないわけで。
「よくしてなんかないでしょ!ふざけて3回、したことあるだけでしょっ!」
――あれ。
俺は本心からにやりとしてしまった。
「……もしかして、覚えてくれてんの?」
するとそれはもう見事に、あいつの顔が発火した。
「なっ……!そ、そんなわけ」
「そんなわけあるじゃん?俺も覚えてるからよーく分かるけど。えー忘れもしない第一回はお前がチョコくれたときだっけか。そんで2度目は今度はクッキーくれたときで、3回目のデコチューは確か」
「わわわーっ!!もう、振り返らなくていいよっ!プレイバック禁止!!」
そう言い何故かまだ片手でデコを押さえたまま、俺に向かってロッドを構える。
……これにはさすがの俺も沈黙した。
当たり前だ。誰だって命は惜しいに決まっている。
俺が口をつぐんたのを見て、まだ頬の赤みはひいていなかったが、それでもリディアはロッドを下ろしてくれた。
「……エッジのばか。そんな理由で、斜め前髪の方が良いってからかうなんて」
「何だよ、俺にとっては重要な問題だぜ。パッツン前髪だと狙いにくいったらありゃしねえ」
結構本気で言ったのだが、前科が災いして案の定リディアからはきつく睨まれる有様だ。ようやくデコに当てていた手を離すと、前髪がさらりと揺れて、白い三角地帯をあっという間に隠してしまった。
「もう二度とエッジの前で斜め前髪になんかしないもんねー、だっ」
一方的にそう捨てゼリフを吐くと、リディアは「いーっ」と俺に向かってきれいな歯並びを見せ、ぷいと背中を向ける。
「せっかく、……せっかく……」
俯いたまま何やらブツブツ言っているので、「せっかく、どうしたんだ?」と訊ねてみたが、
「何でもないもん!」
一言怒鳴るなり、蒸気機関車なみの湯気を頭からしゅうしゅう立ち上らせ、自室へ走って行ってしまった。
後に残された俺は、ただただ苦笑するしかない。
あんなことを言ったリディアだが、どうせ前髪が伸びてくると、邪魔だの何だのと言って再びいつものスタイルに戻すに違いない。
「……っとに、見え見えだっつーの」
まあそんなところが、可愛くもあるわけだけれど。




――そして。



「そんなこともあったっけな……」
口の中だけで呟いた俺の独り言は、誰の耳にも届かなかったらしい。
そっと目をまたたいてみると、今より幾分若々しいあの日の俺たちの残像が、光のなかにゆっくりと溶けていった。
そして今の俺の前には、静かに俯くあいつがいる。顔を覆った薄布の向こうに、伏せぎみになった長いまつ毛と、いつもよりほんのり上気した頬が見えた。
きれいになったなと、素直に思えた。
「――それでは、誓いのキスを」
この大聖堂によく響く声に促され、俺はゆっくりとヴェールをめくる。控えめに生花をあしらったエメラルドの豊かな髪を、そっと耳の後ろにかきあげる。そしてレースで覆われた細い肩に両手を置くと、わずかな震えが伝わってきた。
「……大丈夫だから」
あいつだけに聞こえる声で囁くと、うんと小さく頷いた。
そのまま俺は、斜めに下ろした前髪の横にそっと口づける。何年か前に、ふざけて「実演」してみせたように。
――あの時はあいつをひどく怒らせてしまっただけだったけれど。
数年後の今日、鳴り止まない拍手のなかであいつが見せてくれたのは、とろけるような笑顔だった。





〈END〉

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プロフィール

みずたま

Author:みずたま
1980年代生まれ。
aiko、spitz、ケーキ、お買いもの、野球(中日!!)、そしてFF4のエッジとリディアをこよなく愛しています☆
7歳と4歳の娘に振り回される日々を過ごしていますー。

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