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チョコレート・スナイパー

2015.02.14 20:17|FF4 短編
バレンタインSSです。



チョコレート・スナイパー




結露した窓から見える空は、相変わらずの鈍色だった。外ではまだ雪が降り続けているらしい。
こんな天気にも関わらず、宿のホールはがらんとしている。一体みんなどこへ行っているのだろう。片隅に置かれたストーブの上で、やかんがしゅんしゅんとさかんに湯気をあげるばかりだ。
こうして窓辺に座り、ただ雪の気配を感じているだけで、なんだか心が落ち着くから不思議だった。それは今はもう遠くなってしまったけれど、故郷のあの山間の村を思い出すからだろうか。
リディアは席を立つと、セルフサービスポットから熱い湯を注ぎ、紅茶のティーバッグをそこに沈めた。傍らに置かれた角砂糖に手をのばしかけ、つと思い止まる。

――なんだよ、そんなに砂糖入れちゃうわけ?
――ほんとお前って、お子様だよなあ。

そう揶揄しながらも一切の湿り気のない声を思い出したせいだ。
ティーバッグを揺するリディアの頬が、ぷぅと膨らむ。
「……わたし、お子様なんかじゃないもん」
「――誰がお子様じゃないって?」
突然響いたその声に文字通りリディアは飛び上がった。そのはずみで白いテーブルに褐色の紅茶の雫が飛び散る。それを見て、「もう」とリディアは頬を膨らませた。
「エッジってば、急に声をかけるの止めてよねっ」
「あー、わりわり」
そう言いつつもちっとも悪びれたところのない笑顔を見せると、エッジは入口からセルフサービスコーナーまで近寄ってきた。
「なあ、こんなところで何してんの」
「何って」
リディアは返答に窮して先程まで自分の座っていた席に目をやった。そこにはまだソーサーと、自分用のお茶菓子が並べられている。
「うーんと……午後のティータイム?」
「なるほど。つまりは、おやつタイムってわけだな」
「エッジのいじわる」
上目遣いににらんでみても、楽しげにエッジ笑うばかりだ。
「そういうエッジは、何をしてたの?」
諦めてティーバッグを捨てながら水を向けてみる。大方彼のことだから武具の手入れだろうという予想は、見事大当りだった。外が雪だと知るなり、朝からせっせと愛用の武具を愛でていたらしい。
探し当てた布巾で紅茶の飛び散ったテーブルの上を拭きながら、
「まあでもさすがにそれも飽きちまって、気分転換に下りてきてみたら、お前を見つけたってわけ。――おし、きれいになった」
満足げなその横顔に「ありがとう」とお礼をいうと、リディアは小首を傾げた。
「それなら、エッジも少し休憩していく?」
「お、いいの?そんならご相伴に預かろうかな」
ぱっと顔を輝かせるエッジにつられて、リディアもにっこり笑って頷いた。なんだかそれだけのことが、とても嬉しい。
いそいそと自分用のお茶を用意するエッジを待ち、連れ立って窓際の席に戻る。ひんやりとした冷気にカップから立ちのぼる湯気がふわりと揺れた。
リディアのはす向かいの席に座ったエッジに、ふたつみっつお菓子を差し出してみる。
「おいしいから、エッジも食べてみて」
「おー、サンキュ。そんじゃ遠慮なくいただきまー……あ、あれ」
お菓子の包装を破ろうとしていた手が、ぴたりと止まる。エッジは何かを見つけたようだ。
――あれ、どうかしたのかな。
目をぱちくりさせるリディアの手元をすっと指差すと言った。
「俺、それがいいなあ」
「えっ、これ?」
驚いてリディアがつまみあげたお菓子に、「おう、当たり」と頷く。意外にもそれは小さなハート型をしたチョコレートだった。
「もちろん、いいけど……」
素直にチョコを手渡すリディアだけれど。
……わざわざエッジがチョコを選ぶなんて、珍しいかも。
あまり甘いものが好きではないエッジの普段のお茶菓子といえば、もっぱらクラッカーだの豆類だのが多かった。だから今回もそれに似たようなものを選び、いくつか手渡したのに。
どうか、したのかな。
ぱちくりと瞬いた目だけで伝わったらしい。「まあ、たまにはな」とチョコの包み紙を解きながらエッジは言った。
「今日はなんか、あーチョコが食いたいなーって気分だったの」
「あっ、それなら分かるよ!チョコってなんだか急に食べたくなるよね!」
嬉しさのあまり身を乗り出すくらいだったのに、小さくエッジに吹き出されてしまった。
「何言ってんの。お前は年中チョコ食ってるだろ」
「む。それならそのチョコ返してもらうけど」
「あ、うそうそ。んじゃありがたく、いただきまーす」
ぱくり。
リディアから貰ったハートのチョコをほおばるエッジ。もぐもぐ咀嚼しながら独り言ちた「うん、うまい」という満足げな言葉に、リディアの胸もほっこりと温かくなった。エッジを見つめる大きな瞳が、幸せそうに自然と細くなる。
他にも何かおすすめのお菓子を食べてもらいないなあと見繕っていると、
「――あら、リディア?」
入口のほうから麗しい声が聞こえた。そんな声の主はもちろんあの人しかいない。
「あ、おかえり、ローザ!」
「うす」
手を振るリディアと頬杖のエッジにローザはにっこり笑うと、防寒用にかぶっていた分厚いフードを下ろしながら歩み寄ってきた。手には買い物袋をぶら下げている。雪の中を押して買い出しに行ってきたらしい。
「あらあら、王子様とお茶会中なのね」
「えへへ、そうなんだー。あ、よかったらローザも食べる?」
「ありがとう。それじゃお言葉に甘えていただこうかしら。ええっと……お茶の用意はあっちなのね」
荷物を置いたローザがお茶を汲みに行くのを見やってから、向かいのエッジがひょいと腰を上げた。
「そんじゃ、俺はそろそろ戻るとするかな」
「えっ」
反射的に声をあげてからリディアは驚いた。なぜって、思った以上に大きな声だったし、それに。
……なんでこんなに、残念そうな声が出たの?
動揺して思わず目を伏せてしまったリディアの頭を、その心中知ってか知らずしてか、エッジの大きな手がぽんぽんと叩いた。
「まだ手入れの途中だったからさ。ありがとな、良い気分転換になったぜ」
「あ……うん。じゃあ、また、夕飯の時に」
自分でもわかるくらいにぎこちない笑顔で応じると、「おう」とエッジはにっこり笑って去って行った。いかにも飄々としたその後姿を見ていると、なんだかうらめしい気持ちになってしまう。
――わたしはもっといっぱいいっぱい、お話したかったのに。
「……お邪魔だったのかしら?」
「わっ」
いつの間にか戻ってきていたらしいローザの声に飛び上るリディアだ。もしかして胸のうちまで見透かされていたんじゃなかろうかとひやりとしてしまう。
だってそんな風に言われるなんて。
……エッジの後姿を見送っていたわたしは、いったいどんな顔をしていたんだろう?
あからさまにどぎまぎするリディアに「ごめんなさいね」とすまなさそうに笑うと、ローザは先ほどまでエッジが座っていた席に腰を下ろした。
「ちょっと言ってみたくなっちゃったの。だってリディアの顔が、あんまり残念そうだったから」
ああ、やっぱりそうなんだ。リディアは慌てて反駁した。
「そんなことないもん。ただわたしは、その、エッジがチョコしか食べていかなかったから良かったのかなあって思ってただけで」
「うんうん、もちろんわかっているわよ」
腰を浮かせて反論するリディアを宥めてから、ローザは優雅な仕草で紅茶のカップに口をつけた。けれどなんだかバツの悪いままのリディアはおずおずと椅子に座りなおしてみる。それでもローザの指摘に、まだ胸はドキドキと走ったままだ。そっと触れてみた頬もいつもより熱い。
たまらなく恥ずかしくなって、リディアも紅茶に口をつける。いつものようにお砂糖の入っていないそれは、やっぱり少しだけ苦い。
「……それにしても」
カップをソーサーに下ろしながらローザが言った。
「珍しいわね、エッジがチョコなんて。あの人が甘いものを食べているイメージってあんまりないんだけど」
「あ、うん、そうだよね。なのに今日はどうしてか、自分からチョコを選んでたんだよねえ」
両手でカップを押さえながらリディアが呟く。いつも食べているクラッカー類を脇にどけてまでわたしのチョコを欲しがったのだと話すリディアの言葉を、ローザは興味深そうに頷きながら聞いていた。
「へえ、そうだったの。道理で雪が降るはずよね。まあ2月だから仕方ないけれど……って、あら?」
そこで何かに思い当たったかのように、つとローザの紅茶を飲む手が止まった。綺麗に紅を引いた口元に手を遣り、日常では珍しく真剣なまなざしで何かを考えている。
……どうかしたのかな?
小首を傾げたまま見守っていると、「ねえリディア」とローザが顔をあげた。
「今日って、2月の14日なはずよね?」
「へ?」
咄嗟にホールの片隅にかかっていた日めくりカレンダーを確認してから、リディアはうなずいた。
「う、うん、そうだよ。間違いなく2月の14日だけど」
だから一体どうしたって言うんだろう。はてなマークで頭が満員御礼なリディアの前で、「そうか……なるほどね」などとローザは一人で深く頷いている。その姿はたったいま謎を解き明かしたばかりの名探偵さながらだ。けれどそれにしたって、ひとり置いてけぼりをくらっているリディアは面白くない。
「ねえローザ、いったい何が『なるほどね』なの?何が分かったの?」
ぷぅと口を尖らせ不満顔をしてみせると、「ああ、ごめんなさいね」とようやくローザは正面からリディアと向き合ってくれた。
「あのねリディア。エッジがチョコを選んだのは、今日が2月14日だっていうことに意味があったのよ」
「……どういうこと?」
早く教えてよぅと言うリディア助手の前で、まあそう急かさないとローザ探偵は余裕の表情だ。
「だいぶ前に雑誌で読んだことを、今思い出したわ。バロン周辺出身の私たちには縁がないけれど――エブラーナには、2月14日、バレンタインデーっていう独自のイベントがあるそうよ」
「ばれんたいん、でー?」
全く聞き覚えのない言葉だ。目をぱちくりさせているリディアにローザはうなずくと、記憶を手繰り寄せるようにこめかみに指を当てて話を続けた。
「それがちょっと風変わりな面白いイベントだったから特集されていたのよね。たしか――」
そしてそこでつと言葉を切ると、リディアの顔色を窺うようなしぐさをしてから口を開いた。
「――バレンタインは、女の子が好きな男の子にチョコレートをプレゼントする日、だったはずよ」
……え。
それって。
リディアは思わず言葉を失った。
あのとき、リディアの持っていたハートのチョコをわざわざ欲しがったエッジ。
そう言った彼はいかにもそっけない仕草だったけれど。
たまにチョコが食いたくなるんだよなと、言っていたけれど。
それって、いったいどういう――。
戸惑うリディアに、ローザがずばりと止めを刺した。
「まあ逆に言えば、自分の好きな女の子から男の子がチョコレートを欲しがる日、っていうことになるわよね」
それはもちろんリディアも瞬時に理解していたことだったけれど、それでも言葉に出されると重みが増す。
「で……でも」
リディアはちっとも駆け足をやめようとしない自分の心臓のためにも、懸命に否定の言葉を探した。だってあのエッジが、よりにもよってわたしのチョコを欲しがるなんて。
「エ――エッジは王子様だから、そんなイベント知らなかったかもしれないし」
「まあ、そうよね」
「ただたまたま2月14日に、珍しくチョコが食べたくなっただけかもしれないし」
「うーん、まあそうよね。そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない」
エッジに聞いてみたら?なんてとんでもないことをさらりと言うから困ってしまう。そんな「バレンタインデーにわたしからチョコを欲しがったのは何か意味があるの?」なんていう、自意識が過剰すぎるのかただ単に空気が読めなさすぎるのかわからない質問なんか。
「……できるわけないじゃない」
ローザのいじわると呻くと、ローザはくすくす笑った。
「なんにせよ、エッジも可愛らしいところがあるじゃない?ちょっとだけリディアが羨ましいわ」
「だからぁ、絶対そんな理由じゃないってば!もう、ローザったら」
「ふふ、ごめんなさい」
そう謝ってから紅茶を飲み干すと、ローザはカップと買い物袋を手に席を立った。
「それじゃあ私も行こうかしら。お買い物の後片付けをしないと。――ごちそうさま、リディア」
「あ、う、うん!ローザこそ色々と買い出しありがとうね」
「いいのよ」
そう言ってにっこり笑うローザは、やっぱり見とれてしまうくらい綺麗だ。
「私もバレンタインのこと思い出させてもらったもの。私もあとでセシルへのチョコレートを買いに行こうかしら」
「そ、そうだね、きっとセシルも喜ぶよ」
再び例のバレンタインの話題に戻ってきたのでどぎまぎしつつ笑顔で頷いていると、「ありがとう」ともう一度笑ってからローザはホールを出ていった。
そうするとまた、静かなリディアだけの空間に戻ってしまった。しゅんしゅんというやかんの音だけが聞こえてくる。2度ほど深呼吸を繰り返して、ようやくざわめいていた心が凪いできた。
リディアはそっと、向かいの席に手を伸ばす。そこに置かれている、きれいに折りたたまれた小さな包み紙を取り上げる。それは先ほどエッジが残していったものだ。
「……バレンタイン、かあ」
エブラーナには何て情熱的なイベントがあるんだろう。もっともリディアには、ローザの推理が正しいだなんて到底思えないけれど。
でも、――でも。
包み紙を開いて、もう一度折りたたんでみる。そんなことをしながら、けれどもしもその通りだったならうれしいのになあなんて、ちょっとだけ思ってしまうリディアがいる。
――もし、来年の今頃も一緒にいるのなら……。
リディアはそっと、鈍色の空を見上げた。
現在自分たちの旅は佳境に差し掛かっている。今は食糧補給などで青き星に戻ってきているけれど、明日この雪がやみさえすれば、再びあの月へ、激戦の日々へ舞い戻ることになるだろう。
そして間違いなくあと1,2か月のうちには、どちらに転ぼうともこの旅は終わりを迎えることになるはずだ。
だからこそ、別離を超えても、なお。
――来年の今頃もまだ、ふたりつながっていられたのなら。
「そしたら……その時はちゃんとしたチョコを、プレゼントしてみようかなあ」
そうつぶやいたリディアの手元には、いつの間にかきれいに折られた小さなハートが出来上がっていた。


<END>

Comment

みずたまさまーー!前回のコメントにお返事いただけたのが嬉しくこちらを覗いたら新しいSSが!!(*^▽^*)
ほっこり幸せな気持ちになるお話しをありがとうございました♪
みずたま様の書かれる文章ってすごく情景が浮かびやすく、かつそこの温度も分かるようですごいなぁって思います。
ああ、若様可愛いなぁ(^人^)

そうですリコシェはspitz由来HNです(*^ー^)ノ
私、嵐も好きです!(あまり曲は詳しくないんですが)
「hit the floor」早速チェックしましたよー♪
ホントだ大人なエジリディ・・・素敵o(^▽^)o

私にももうすぐ2歳になる娘がいるのですが、いつか娘にFF4プレイしてもらってエジリディトークで盛り上がりたいなぁなんて思ってます(笑)

何だか私信のようなものを長々とすみませんm(_ _)m
またいつでも構いませんのでSS楽しみに待っています☆彡
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プロフィール

みずたま

Author:みずたま
1980年代生まれ。
aiko、spitz、ケーキ、お買いもの、野球(中日!!)、そしてFF4のエッジとリディアをこよなく愛しています☆
7歳と4歳の娘に振り回される日々を過ごしていますー。

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